『旅路の果て』

寺山修司

新書館

1990年4月発売


武市好古さんの「アート・ブレイキーに競馬が好きかと訊ねたら」を読んで競馬本の魅力に再び気づいた。このタイミングを逃さないとばかりに、長年寝かせてしまっていた寺山修司の本に手を伸ばす。幾つかの有名な詩はもちろん知っているし、エッセイも読んだことはある。だけど恥ずかしながら、著書を読むのは初めて。「競馬の快楽とは、運命に逆らうことだ」。逆らった馬も逆らえなかった馬も、その馬を好きになった人もみんなひっくるめて、情感たっぷりに描いた一冊。やっぱりこの時代の競馬エッセイには何か呪いというか、魔法がかかっている。

 

「毎回たのしみに読んでおりますが、このところ悲しい馬のことばかりで気が滅入ります」。当時の読者からの手紙。思わず吹き出してしまった。寺山修司のイメージとして持っていたバッドエンドテイストは確かに存在していた。でも、小さくフッと笑えるようなユーモアがあったり。勝手に持っていたイメージとは別の寺山修司もそこにはいた。レースのどん尻を走っている馬を見つめ、そこに物語を見出し、丹念に言葉を紡ぐ。はっきり言ってこんな文章を書ける人は今いないと思う。時代が違うと言ったらそれまでなんだろうけど。