『馬敗れて草原あり』

寺山修司

新書館

1989年10月発売


もう一気に読んでしまおう!続けて寺山修司の競馬エッセイを手に取る。本を読んでからというもの、取り憑かれたように過去のレース映像や、その馬に関するエピソードを読んでる。同じ馬ということには全く変わらないし、強さや技術だってどんどん進歩してるのに。不思議だなあ、魅力のある馬は昔の方が遥かに多い。

 

「なぜあの馬が強いのか。きっとオーナーが取り違えたからだ」。今だったら絶対にこんな文章、活字にすらできない。まだこんなことが発言できた時代。ある意味すべてが出揃ってなかったからこそ出せた魅力だとも言える。続けて著書を読んで非常によく理解した。「言葉の錬金術師」の異名は伊達じゃない。「エンピツじゃ人は斬れないが、ことばじゃ、人を斬れる」。過激に不気味に、競馬の素晴らしさを余すところなく伝えた一冊。「どんなにイメージ転換がはかられようと、競馬には小市民的な調和の思想の入りこむ余地はない」。これを読むと今の競馬は優等生過ぎる。良くも悪くも血統が金太郎飴状態になってしまって、ダメな家系の馬はもういなくなった。後はもう、人生を競馬の比喩を駆使して書きまくる人間の出現しかない。待っています。