村上春樹
講談社
2004年9月発売
「新宿の紀伊國屋書店に行って、原稿用紙を一束と、千円くらいのセーラーの万年筆を買ってきた。ささやかな資本投下だ」。去年末に読んだ「走ることについて語るときに僕の語ること」に、駆け出しの頃の話がとても細やかに書かれていて、デビュー作である本書をとても読んでみたい気持ちになっていた。香川の「宮脇書店」で難なく購入。
「僕としては作品が日の目を見るか見ないよりは、それを書きあげること自体に関心があった」。こんな風に当時を思い出されていることからもよく分かる。一気に書いた勢いは伝わってくるけど、気負いみたいなものは全く感じられない。主人公と数人の男女と、限られた場所で展開される小さなやりとり。なんでそれだけで本がこんなに面白いのかと思えば、そのディテールの細やかさ。食事や会話、お酒。すべての小道具が微妙に日本のそれじゃない。アメリカ。まるでヴィレッジヴァンガードにいるような気分。一瞬で検索することなんかできない時代に生まれた作品。この雰囲気にやられた若者も相当数いたことが容易に想像出来る。村上春樹の魅力がようやくわかり始めました。ますます他の作品も読んでみたくなってきた。