高橋源一郎
集英社
2013年9月発売
ケンタッキーダービー14着。たった一行で片付けられてしまう。種牡馬としても、パッとしなかったんだなって思う人もいるだろう。でも、それはすべての結果を見た後だから。「特別な一日」「そして、いつの日にか」「天井桟敷の人々」「楽園」。スキーキャプテンがアメリカ最高峰のレースに挑む様子を、最大級の期待と不安を込めて、こんなに濃密に書いた本なんて、世界中のどこを探したって見つからない。リアルタイムに好きだった馬。こんな本を書いてくれたことを、心の底から感謝しています。
トウカイテイオー、ダンシングブレーヴ。ビワハヤヒデ、イージーゴアにヒシアマゾン。どんどん血統表の右の方へと追いやられていく馬達が、本の中では踊るように躍動している。今より、もっとずっと日本と世界に距離を感じた時代。でも同時に、強烈な憧れと興奮を、競馬ファンはいつも心に抱いていた。この距離感に戻ることはもうできない。その瞬間をパッケージ。馬券もしこたま買っている著者。我々読者は、読むというカタチでしか負債を補填できないけれど…高橋源一郎の「競馬漂流記」も読んだことがないくせに。せめて後世に渡って、しつこく語り継がせてください。