『池波正太郎に届ける「おせち」』

近藤文夫

筑摩書房

2010年11月発売


「すべて前もって前もって……」。「男の作法」で池波正太郎さんが時間の活用について話されていたけど、こちらの方も。東京、銀座「てんぷら近藤」の店主、近藤文夫さん。年末が近づくと、営業の合間を縫っておせちを作り、池波さんに届けられていたんだそうです。準備にかける期間はなんと3週間!「すべて最高の一番いいものを使おう。すべて美味しいと喜ばれ、感動していただけるものにしよう」。男が男に惚れるというのはこういうことなんだろうか。お二人の交友録。

 

「結果が示される前に、その場を立ち去る」。自分で強引にアピールするなんて論外も論外。「とにかく気遣いの細やかな方でした」。男は損得勘定抜きで相手に接するもの。そんな男の魅力は相手が自然と語りたくなる。池波さんがお亡くなりになってからも、毎年おせちを作り続けているという近藤さん。心の中に息づいているなんていう言葉があるけど、お二人はまさにそんな関係になっているのかな、なんて思ったりした。それが素直に素敵で羨ましかった。おせちはこれからも池波さんの楽しみの一つなんだろうけど、近藤さんが出されるてんぷらは是非とも一度は食べてみたいです。

 

 

『本の街あるき NO. 51』