石田千
白水社
2008年9月発売
二週間前に行ったばかりの店が突然閉まったと聞いたり。年明けにまた今度食べに行きますと挨拶を交わしたばかりの店が突然もぬけの殻になっていたり。特段珍しいことじゃないのかもしれないけど、去年の後半からこんなことが二度続いた。岡山の中区に新しくできた古本屋「古京文庫」で購入。温かみを感じる本棚、丁寧に手入れが行き届いた古本。以前良くしていただいた店の近く。どちらもよく似ているのがまた。
本の中の光景をイメージしながら読んでいたら、突然自分がどこにいるのかがまったく分からなくなってしまった。主観が抜け落ちた独特の文体。福島県生まれで東京育ちの著者の長年にわたる飲み歩き食べ歩きの記録。流行りの店よりも落ち着いた店の方が好き。写真も残るし、今なら有名店じゃなくても映像だって残せる。それでも店の匂いや空気、そこで話したやりとりはもう二度と再現できない。その儚さと切なさを存分に感じられる傑作エッセイ。店はなくなるし、また新たに生まれる。わかってはいる。それでも時は止められない。寂しい変化はあまり起きて欲しくはないけど、それでもその循環を大切に受け止めたくなる一冊。
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